夜。時計は10時を回っている。ぼくは寝室の机で仕事をしていた。
音のない夜。サイレントナイト。
と、家のどこかでドタンバタンと大きな音がして娘の叫び声。
ふん、きっと、クモでも出たのだろう。
ぼくは聞こえなかったことにして仕事を続けた。
風呂から上がった妻が娘の部屋に直行した。風呂の中まで聞こえたらしい。
やがて妻と娘がそろって寝室に入ってきたが、それらしいことは何も言わない。
妻は娘に口止めされたようだ。
娘の部屋は思い切り散らかっている。
紙くずといっしょにジャンクフードなども混じっている。
ぼくは何度も言う。
「部屋が汚いとダニが湧き、ダニを食べる小さな虫が寄ってくる。そして大きなクモがやってきて、その虫を食うんだ。アンダースターン?」
そして、ぼくが言った通りになる。
負けず嫌いの娘は、ぼくが言った通りになるのが何よりも悔しい。
だからぼくにはクモが出たなどとは絶対に言わない。また、こんな風にも言う。
「クモなんか怖くない」
「明日、部屋の掃除をすると言ってたよ」と妻が言った。