カニではありません
上を向いて歩こう
夜、ウォーキングに出るとき、カメラは持参しない。もし職務質問にあったら、めんどうな会話になりそうだから。でも今夜は月食。月食が始まる時刻とウォーキングの時間が重なってしまった。夜空は雲に覆われていたが、雲の切れ間から顔をのぞかせてくれるかもしれない
そういうわけで、ポケットに小さなコンデジを入れてウォーキングに出た。万が一、職務質問にあっても「月食を撮ろうと思って」と言えば済むような気がした。折り返し点の公園を歩いていた時、時計の上に欠けた月が顔を出した。あわててカメラを出し、シャッターを切ったが遅かった。月は隠れてしまった
雲間から月が出るのを待ったが、出てこなかった
しばらく歩いていると、雲が薄くなってきたらしく、時々月が見え始めた
雲が切れ、あちこちで星が瞬き始めた。遊歩道の脇にあった遊具に肘をのせてカメラを固定し、ズームを望遠にして何枚かシャッターを切った。幻想的な光景だった
ヒーローになれなかった
朝、空港に人を迎えに行った後、山を越え、海の近くの食堂で魚フライを食べた。砂浜をぶらぶら歩きたかったのだけど、風が冷たかったのでやめた。家に帰りついたのは3時過ぎだった。まだ明るかったけどウォーキングに出かけた。遊歩道をしばらく歩いていくと、大きな木に小学生が群がって騒いでいた。見上げると、木の高いところにカバンがぶら下がっている。だれかが放り上げたのが枝に引っかかったらしい。小学生の一人が長い棒を持っていたので、貸してみろ、と、それをひったくり、背伸びをしながら棒の先でカバンを突っつくのだが、もうちょっとのところでうまくいかない。カバンが枝から外れそうになるたびに歓声が上がる。カバンが取れれば、ぼくは文句なくヒーローだ。だが、結局カバンは取れなかった。ぼくは棒を小学生に返し、カバンのぶら下がった木とその周囲にアリのように群がっている小学生たちを後にした
そして371日
青い月夜
夕食後、いつものようにウォーキングに出た。いや、いつものようにではない。ポケットにウォークマン、耳にイヤホンという出立ちだ。遊歩道に月の光がさらさら降り注いでいた。夜遅いせいか歩いている人はいない。奇妙なことに、馴染んだ曲が、いつもと違って聞こえる。時空を超えて聞こえてくる、とでもいおうか・・・ふと青春時代に聞いた曲が流れてきた。ぼくは瞬く間に時間を遡り、友人たちと無心に遊んでいるころに戻っていた。めまいがして立ち止まった。涙が出そうになった
MTで行こう
柵の向こう
カメラをさげて
寺田寅彦の随筆に、カメラをさげて、というのがあって、こんな出だしで始まる。「このごろ時々写真機をさげて新東京風景断片の採集に出かける。技術の未熟なために失敗ばかり多くて獲物ははなはだ少ない。しかし写真をとろうという気で町を歩いていると、今までは少しも気のつかずにいたいろいろの現象や事実が急に目に立って見えて来る。つまり写真機を持って歩くのは、生来持ち合わせている二つの目のほかに、もう一つ別な新しい目を持って歩くということになるのである。」
昨日、駅ビルで昼食を食べた後、近くの古い商店街をぶらぶら歩いた。その時カメラは持っていなかったが、いつもの癖で、カメラを通した風景を同時に見ていた。昭和風情の古い喫茶店に入り、熱いコーヒーを注文した。暖房が効いてて心地よかった。なかなかいい音でジャズが流れていた。ぼくはコーヒーを一口飲んだ後、仮想のカメラを使って何枚も写真を撮った
電気犬の夢
夕食後、いつものようにウォーキングに出た。ふつう9時前に家を出る。夜が更けているせいか、歩いている人はめったにいない。たまに犬を散歩させている人とすれ違うくらい。夜、一人で歩くのはなんだか寂しい。うちにも犬がいたら連れて歩くのに、と思う。でも、途中でウ〇コしたらめんどうだな、と、考え直す。そこでひらめいた。ソニーが犬のロボットを売り出してるけど、あれならウ〇コで煩うこともない。そう遠くない未来、散歩用ロボット犬が発売されるだろうから、安かったら買うことにしよう、なんて思いつつ、この回想、ディックの近未来小説、アンドロイドは電気羊の夢を見るか?の冒頭の逆バージョンだな、と思いあたって、時代は既にSFが描いていた近未来の入り口に差し掛かっているのかもしれない、という気がしたのだった














