道草

朝、友人Fがやってきた。いっしょにコーヒーを飲みながら、今年の夏は短かったね、という話になった。学生時代、彼とはキャンプに行ったり、泳ぎに行ったり、カブト虫を取りに行ったりで、時間があれば遊んでばかりいた。ほかにするべきことはたくさんあったのだけど。しかし、今、振り返って思い出すのは海や山で友達と無心に遊んだことばかり。人生の多くの時間を費やしたはずの仕事のことは不思議なくらい思い出せない。
ぼくはふと「小椋佳の道草みたいだね」と言った。Fもその歌詞を思い出し、深くうなずいた

シャワー

村上龍のある短編の主人公は虫歯の穴に詰まった食べもののカスを舌の先で探っていると夢見心地になり、まるで麻薬をやった時のようにトリップし、知らない町や過去をさまよう。この短編を読んだのは30年以上前だが、その頃ぼくはこの主人公と似たような経験をしていた。ぼくの場合、奥歯に挟まったカスを舌の先で執拗に取ろうとしているうちに現実と非現実の境があいまいになって、今ぼくはここにいるのか、夢を見ているのか、それともこれは映画なのだろうか、となり、あわてて不覚に陥った自分の座標を確かめていた。思うに村上龍も同じような現象を経験していたんじゃないかと思う。彼は薬物経験者だし、脳内にトリップしやすい回路ができあがっている気がする。この現象はいつの間にか止んだが、最近また同じような症状が現れるようになった。夏の間、風呂上りに冷水のシャワーを浴びるのだけど、その時トリップする。たとえば、子供のころのぼくが見知らぬ町を探検していて道に迷い、不安になったときの家並みが亡霊のようにぼくを取り囲んでくる。以前のように自分の座標を見失う程ではないので、その世界を客観的に眺め、楽しむ余裕がある

バラのために費やした時間

サンテグジュペリの星の王子さまを久しぶりに読んだ。今回は河野万里子さんが訳したのを読んだのだけど、これまで読んできた内藤濯さんの訳とはだいぶ違った印象を受けた。たとえばキツネが別れ際に王子さまに秘密を教えるシーン。

内藤濯さんの訳では…

「あんたが、あんたのバラの花をとてもたいせつに思っているのはね、そのバラの花のために、ひまつぶししたからだよ」

河野万里子さん訳では…

「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間だったんだ」

となっている。

いずれにせよ、この物語に出てくる王子さまとバラに関するエピソードは妙に切実で、サンテグジュペリ自身の深い悩み、悲しみがひしひしと伝わってくる。夏の終わりに読むにはチト辛い物語なのだった。

A LONG VACATION 2日目

今日は最高気温が36.4度あったそうだ。今日の予定は自宅の庭木の剪定と草払い。ヤブと化した庭から出撃してくる蚊やハチ、毛虫などから身を守るため、長そでのシャツと手袋で肌を覆う。木の枝をのこぎりで切っていると体温はみるみる上昇。地面から生え出た正体不明の木を力を込めて引き抜こうとするが根が深くてビクともしない。1時間もしないうちにカラータイマーは赤く点滅しはじめた。このままやってると熱中症だ。しかし止めるわけにはいかない。今日中に作業を終えないと遊ぶ時間が無くなってしまう。ぼくは酒に酔ったようにふらふらしながら草払い機を操り、近所迷惑な爆音をとどろかせて雑草を駆逐していった

アイ,ロボット

体中が痛かったせいで、今日はロボットのような動きで仕事をした。原因は昨日、半日かけて行ったキッチンの浄水器の蛇口交換と配管の水漏れ工事。キッチンの下にもぐりこみ、奥でとぐろを巻いているフレキ管のパッキンを全部取り替えた。無理な姿勢で、狭い隙間にあるパイプを外したりつないだり。ぼくはつくづく思った。水道屋さんの仕事はホントに大変だな、と