散髪

髪を切りたくてしょうがないのに、定休日を月曜日と第三日曜にしたせいで、なかなか床屋にいけない。女の人は、髪を切ったり伸ばしたり、髪型を変えたりして遊べるからうらやましい。むかし、天文館にミスティという小さなバーがあって、会社の後輩とよく飲みに行った。カウンターで酒を飲みながら話すことといえば、車と女のことばかり。ぼくは力説した。
「となりの座席に乗せる女の子は、髪が長くなくてはいけない」
窓を開けて走るとき、髪が乱れるのがセクシーなんだ、というのがその理由だった。今思えば、かなり屈折している。そしてその後輩は長い髪が似合う女の子と結婚した。そして今もドライブに明け暮れている。

湯気の向こう

目を覚ますと、パンの焼けるいい匂いがした。
そうだ、昨夜はパン焼き機のタイマーをセットして寝たのだった。お客さんから手作りのレバーペーストをもらったので、ぼくはパンを作ることにしたのだ。パンの焼ける匂いは幸せの匂い。休みの朝はこうでなくっちゃね。熱いコーヒーを飲んで、ドライブに出かける。予報では、今日は飛び切り寒い一日、とのことだった。こういう日は冷たい雨に打たれながら熱い温泉にゆったり浸かるのがキモチイイ。そこで、指宿郊外にある、外湯のある温泉に行くことにした。車はみぞれ混じりの雨の中を走る。BGMはビーチボーイズ風に歌う山下達郎。古い歌だけど「夏への扉」が聞きたかった。温泉に着いた。車から出ると硫黄の臭いがあたりに漂っている。外湯は湯気に煙ってよく見えない。湯気の向こうに何か期待してしまうのは変なクセ。

窓の猫

朝、目覚めると自分が不機嫌であることに気づいた。
最近、寝覚めが悪い。きっと悪い夢を見ているのだろう。
窓を開ける。冷たい風が吹き込んでくるが、ぼくは毎朝窓を開けないと気がすまない。洗面所で顔を洗っていると、先ほど開けた寝室の窓からネコの声がする。窓の開く音を聞きつけたネコがやってきたのだ。しかし、網戸があるから入って来れない。はずだった。見ると、わずかに開いた網戸の隙間から今まさに室内に飛び込もうとしている。目と目が合った瞬間ネコはジャンプした。が、後足がカーテンに引っかかり、床に激突。
ぼくはあっけにとられた。
気がつくと、ぼくの不機嫌はすっかり消えていた。

眠れない夜が明けると

いい年こいて朝からオフコースをかけている。
オマエなぁ、求めすぎだよ、女に。そんなの不可能なんだよ、オマエ。ぼくはいつものように彼の歌詞に文句をつけながらコーヒーを飲む。小田クン、キミは思い違いをしている。いや、狂ってる。かわいそうに。
相手が女である限り狂ってるのが正常な気もする土曜の朝。

鍋の作戦

レバーが好きだという人は少ないと思う。ぼくは好きではないが嫌いでもない。わが家では、焼肉をするさい、子供と妻にはレバーの割り当てをする。そうしないと、ぜったいに食べないからだ。それほど連中はレバーを忌み嫌っている。
ところで、今日はアンコウ鍋だった。
アンコウ鍋で一番うまいのはアンキモであるが、いかんせん高価である。アンキモとは、言うまでもなくアンコウのレバーであり、見た目もレバーそのものである。わが家のテーブルにアンコウ鍋が初めて載ったとき、ぼくはアンキモを指さしてこう言った。
「うおー、このレバーを見てみろ、まさにレバーそのものだな」と。
この作戦はしばらく功を奏していたが、なぜか最近、息子が食べるようになり、ぼくの取り分は減少した。

美しい蝶

帰宅して、いつものように映画を壁に映して鑑賞。
ピッチブラックというSF映画。エイリアン2の二番煎じみたいな映画だった。一段と頭がモヤモヤしてきたので、引き続き先日録画しておいたマイルスデイビスの特集を見た。彼はジャズで有名なミュージシャンだけど、目指しているものは「ジャズ」に収まるものではないようだった。
ボクシングのトレーニングをするマイルスが映し出される。
その姿は彼の演奏の姿そのものだ。
彼にはふつうの人には見えない美しい蝶が見えるので、無我夢中でそれを追いかける。
一般の人に見えないものが見える人は孤独になる。

30日

明日から12月。
「営業はいつまでですか?」常連の奥様に尋ねられた。
「29日までですよ、30日が大掃除です」
「大掃除?しなくていいんじゃないですか?いつもきれいにしているし」といって、店内をぐるりと見回し、「A型なんですか?」と、ほほえんだ。
「いえ、ぼくはB型ですよ」
「ふぅーん、A型だとばかり思ってました」悲しそうな顔でぼくを見た。
「A型が綺麗好きで几帳面というのは当たってないですよ」
ぼくは反論した。
「あら、わたしはAなんですけど、カーテンがピシャッと閉まってなかったりベッドで布団が曲がってたりすると、とてもイヤですわ」
結論に至りそうもない会話が20分くらい続いた。
決してヒマではないのだけど、なぜかいつもこうなる。

ブラッドベリな日常

SF小説を読む人って、少ないような気がする。
きのう、ブログに火星のことを書いてしまった。
馬鹿げたことを書いてやがるな、と思った人もいるかもしれない。
然り。
生活日記に火星上のことなど書くやつはめったにいない。
ピロートークに火星を持ち出す男なんて無に等しい。
しかし、一部のSFマニア(SMじゃないですよ)は、日常に火星や土星はもちろん、銀河系外宇宙までも持ち込むのです。
今宵、無重力なひとときをあなたに。

火星の休日

1

今日は定休日。
昼前、江口浜の蓬莱館に行った。屋外のデッキに出て、陽光を浴びながらの食事。夏とはまるで違う。太陽は遠ざかり、遥か彼方で弱々しく輝いている。まるで火星に来て食事をしているような気分だ。火星にはまだ行ったことないけど。
食事を終えて、海に出た。堤防に腰掛け、熱いコーヒーを飲みながら、遠くで漁をする小船を眺めていた。

20回

狭い室内に閉じこもったまま仕事をしているので、体力は衰える一方だ。そこで、毎朝ぼくは腕立て伏せをしている。20回。そして腹筋運動もする。これも20回。少ないだろうか。
少ないに決まってるよな。