金曜日の午後

近所の庭で変な物体を発見してしまった。子供の頃、図鑑で見て欲しくてたまらなかったトックリバチの巣に似ていたので、庭の所有者の承諾を得て取ってきた。トックリバチの巣はサラリーマン時代の同僚から貰うことができて宝物にしていたのだが、これはそれよりかなりデカい。

持ち帰ってネットで調べたら、コガタスズメバチの初期巣であることが分かった。6月以降、中の幼虫が孵って働きバチになり、これをバレーボールくらいの大きさに仕立て上げるという。コガタスズメバチはよく見かけるキイロスズメバチより大きく、夏から秋にかけて狂暴になるらしい。いわゆる危険生物。なんだか手元に置いておくのが怖くなってきた。でも中の幼虫にキンチョールをぶっ放して巣だけいただくのもかわいそうだし。ってなわけで、後先考えず手に入れたことを後悔しはじめた。そこに山奥で豆腐を作っている金曜日の男がやってきた。
「悪いけど、こいつを人がいない山の中に持って行ってくれないか」
ぼくは山奥に住む心優しきネイチャーボーイにハチの巣を委ねることにした。金曜日の男は、これで酒を飲んだらうまそうだね、などと笑いながら持って行った。

火曜日の朝

ぼくはよく失敗するが、それをヨッパライ某に話すととてもうれしそうなので、ぼくもよろこんで話す。おそらく、ぼくがいつも威張っているから失敗すると気分がいいのだろう。今日も失敗したので夕食のときにその話をした。
今日は午前中、お客さんが一人も来なかった。まあ、こんな日もあるさ、と思いながら弁当を食べていると、若い女性が入ってきてこう言った。
今日は営業されているんですか?
変なことを聞くお客さんだな、と思いながら、
ええ、やってますよ。
と答えると、
ドアに「定休日」と書いた紙が貼ってあったものですから。
と言われた。
朝、はがすのを忘れてた

月夜

夜8時。南東の空に月が浮かんでいた。
国際宇宙ステーションが月の上を飛んでいくというのでビール片手にそれを待っているのだった。
来た。
ぼくは南西の空を指さした。白い光の粒が明るさを増しながら高度を上げている。
あれに人が乗っているんだ。とぼくは言った。
光の粒は頭の上を通り過ぎ、北東の空に向かって行った。
あれ、どこへ行くの? と、ヨッパライ某が言った。
地球をぐるぐる回っているだけ、と、ぼくは言った。
バカみたい。
と、ヨッパライ某は言った

PCR検査デビュー

昨日は念のためPCR検査を受けに行った。結果はラインで送るとのことで、唾液を採取した後、ラインを立ち上げ、QRコードを読み込んで名前を送信。

そして今日、お昼ごろこんなのが送られてきた。人ごみを避けて行動したので大丈夫という確信はあったけど、ちゃんと調べてもらった方がスッキリするよね

蛍の光

店の入り口の天井に設置してあるダウンライトの蛍光灯が切れた。LED電球が切れても悲しくもなんともないのに、蛍光灯が切れると、なんだか切ない。蛍光灯が過去のものとなりつつあるせいかもしれないし、蛍の光という名前のせいかもしれない

質問があったので

ヨッパライ某ってだれなんですか?って、このブログを読んだ人から時々聞かれるんですが、別に特殊な人などではなく、ただの配偶者です。由来は「Wino Junko」というウイングスの曲で、アルバム、スピードオブサウンドに収録されてます。なお、ブログの記事にコメントがあった場合、ぼくはスプーンという名で返答しますが、こちらは、山田詠美「ベッドタイムアイズ」の冒頭、「スプーンは私をかわいがるのがとてもうまい。ただし、それは私の体を、であって、心では決してない」から拝借しております。

ホームポジション

たとえばバッハのゴルトベルク変奏曲のメロディーがぼくの中にあって、いつもそれが流れているとする。しかし、生活してるといつか気づかないうちに音符が乱れ、メロディーが崩れてぼくがぼくじゃなくなっていく。ある晴れた日の午後、コーヒーを飲んでると、ふと、なんか変だな、と感じる。心に生じた小さな違和感。多くの情報の中にどっぷり浸っている間に、淀みに流され、くるくる回っている自分。そんなわけで、数日前から、ある哲学のテキストを引っ張り出して読み始めた。何年ぶりだろう。何度も繰り返して読んでるのでボロボロ。水の中を泳いでいる魚は自分が濡れていることに気づかないだろう。自分とは何か。主体の実体化に対する懐疑。そう、ぼくはそこにいる