土手のコスモス

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谷を流れる川に沿って下っていった。15分ほど歩くと傾斜は急になだらかになり、景色が開けて田園風景が広がった。川は稲刈りの終わった田んぼの間を緩い弧を描いて街に向かっている。ぼくは変わらぬ調子で川沿いの道を歩いていった。しばらく歩くと川の土手にコスモスが群生し、風に揺れているのが見えてきた。おそらく風に運ばれた種が時間をかけて少しずつ増えていったのだろう。ぼくはカメラを取り出して写真を撮り始めた。するとどこからか男の声がした。
「きれいやっどが」
訳 「そのコスモス、きれいだろう?」
声のほうを見ると、麦わら帽をかぶった農作業服のオヤジがこちらを見てニヤニヤしている。
「ええ、野生のコスモスはやはり一段ときれいですね」とぼくは相槌を打った。すると麦わらのオヤジはうれしそうに言った。
「そんたーおいが植えたたっど」
訳 「そのコスモスはワシが植えたんだ。どうだ、きれいだろう、がはは」

トウワタとカバマダラ

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ヒマだったのでカメラを持って近所をぶらついてたら、ちょっと先の駐車場にトウワタの花が咲いているのを見つけた。被写体としてなかなか良いような気がしたので、何枚か写真を撮っていると、その葉っぱに世の女性たちが忌み嫌う、あの生物を発見した。
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もちろん、ぼくはなんともない。かわいいとさえ思う。この人の恩遇を受けられない無愛想な生物も、やがて羽化して風に舞えば、少しは女性の気に入る風景になるのだけど。
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安物買いの銭失い

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店の帰り、某電気店に電球を買いに行った。電球売り場に行くと、LED電球がかなり幅を利かせていたのでちょっとびっくり。価格を見ると、どれも3000円近くする。くそ、こんな高い電球、誰が買うんじゃ。とブツブツつぶやきながら、棚の隅を見ると、処分価格、198円というLED電球を発見。何でそんなに安いのかと思ってよく見ると、LED灯数12灯、白熱電灯の5W相当、長寿命20000時間、とある。ふむ、たぶん、この5W相当ちゅうのがマズイんだろう、暗すぎるからな。と勝手に納得し、まぁ198円だし、いっちょ買ってみるか、と、適当に3個つかんでかごに入れようとしたとき、緑色、いう字が目に止まった。ん?緑色。調べてみると、そこにぶら下がっている電球は緑と赤しかない。白はないのか。なかった。赤とグリーン。どこに使えばいいんだ。ま、198円だし、なんとかなるさ。

R33Returns

西の空が赤く染まる頃にやってきたのは先月末さよならを言いに来たR33男であった。九州を去り、新しい土地に着任して10日目の今日、こちらに出向いたのは必要な書類を取るためだった。
ところでブログにコメントがついてたよ。と、ぼくは言った。
え?気づかなかった。ブログの見方がよくわかんなくて。iPhoneで見てみよう。
と言って、彼はiPhoneを取り出した。
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島根の灯台

店からの帰り、お客さんの家にコーヒーを配達した。チャイムを鳴らすと、ひげを伸ばした初老の紳士が(といっても、ずいぶん若く見えるのだが)、いつものように柔和な笑顔で出迎えた。コーヒーを渡した後で、いよいよですね、と言うと、たちまち相好をくずし、ええ、今その準備中なんですよ、と言った。定年退職を迎え、近々、念願の日本一周の旅に出るのだった。一人で運転してですか、と聞くと、相手がいないからしょうがないでしょう、と白い歯を見せて笑った。奥さんはずいぶん前に亡くされていたのだった。まず、島根にある日本一高い灯台を見に行きます。それから日本海側を北上し、能登半島に行って竜飛崎まで上るんです。もしかすると北海道に渡るかもしれない。網走に友達がいるんで。
熱く語る、日に焼けた初老の男の顔を見ていたら、なぜかぼくもわくわくしてきた。島根に日本一高い灯台があるなんて知らなかったので、ぼくもそれを見たくなった。よーし、次は島根だ。灯台だ。

ノーぺル文学賞スピーチ「壁と肉」

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あつい鍋の中にお壁と肉だんごが入っていたら、とりあえずぼくは肉の側につく。しかし、肉より壁のほうがうまそうに見えた場合、ぼくは壁の側につく。どちらにせよ、いずれ口に入れるのだから、いちいち迷うのは時間の無駄でしかない。しかし、そのように無駄に見えるふるまいが文学のありようなのである。

トドメ

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研修疲れ、でしたっけ。ずいぶんくたびれたご様子でしたね。しかも、思い切って買うつもりだった念願のドリップポットが在庫切れ。トドメを刺しちゃってすんません、明日入荷予定です。