あのころは楽しかったな。車を買うと、まずハンドルを取り替え、マフラーを交換してた。そのころヘッドランプはスタンレーのシールドビームだったけど、これをボッシュに換えると見違えるように明るくなった。夜のドライブが昼と同じくらい楽しくなって、夜な夜な友人たちとドライブしたものだ。時々ぼくは、このランプを取り外し、ぬるま湯と洗剤で中まできれいに洗い、反射板、ガラスレンズをピカピカに磨き上げてはそれをうっとり眺めていた。あのころは車との会話が楽しかった。いつかまたそういう時間が持てたら、いいな
花を買いに行く
朝、外に出てみると生暖かい風が吹いていた。雲は低く垂れ込め、ぱらぱらと雨が降っている。こんな陰鬱な日に彼女をのせてドライブに出かけるのは自称フランス映画好きのB型男くらいのものだ。そんなわけでたまには庭の手入れでもしようと思い、雨にぬれながら枯れたアジサイやハギを地際で刈り取り、骨になったバジルを引っこ抜き、土だけが残った植木鉢を手当たり次第ひっくり返して空にした。枯れ木も山の賑わい、というが、枯れた植物であっても、ないよりはマシだったように見えた。少々さびしくなった庭を見て、草花を買いに行こう、という気分が湧いてきた。そうだ、ノースポールを買ってこよう。ぼくはこの真っ白な飾り気のない花が大好きなの。うふ
全てのことは メッセージ
こんな朝、ふと見たくなった映画
朝、外に出ると霧雨が降っていた。景色がミルク色に淀んでいる。特にこれといった理由はないのに気分が沈み、何もかもがつまらないことのように思えてきた。こんな風景をどこかで見た。いや、それは風景ではなかった。あの映画。あの映画を流れ続ける通奏低音。そうだ、帰ったらあの映画を見よう。ぼくは少し元気を取り戻した。というわけで、今までそれを見ていました。エル・スール
憧れのチャブ台
ボッケモン世界を行く
The Neverending Story
屋上に出てベンチに座り、いつものように夜空を仰ぐ。オリオンは西に傾き、星空のステージから降りようとしている。BGMはバッハのBWV639。果てしない宇宙には重厚なパイプオルガンの音色がふさわしいのだが、屋上に置いてないので、かわりにぼくが口笛を吹く。北斗七星の横を尾を曳いて星が流れる。あれだけ強く輝きながら、まったく無音。ジェット機はあれよりずっと小さいくせに唸りながら飛ぶ。ぼくの物語にはバッハが流れ、不意に流星が飛ぶ。そしてぼくはときどきつぶやく。ぼくの物語はこんなふうに続く。
ムーミン谷のカバは冬眠から覚めただろうか
二匹の犬
夜、風呂から上がって屋上に出た。遠くで犬が吠えている。それが山に跳ね返って、もう一度聞こえる。すると犬がまた吠える。犬は別の犬が吠えたと勘違いしているらしい。二匹の犬は交互に吠え続けていた。